ログインけれど、俺たちの仕事はこれだけでは終わらなかった。森の深淵からは、依然として飢えた獣のような咆哮が響いている。放置され、増えすぎてしまった魔物たちが、今もなお村の安寧を虎視眈々と狙っているのだ。
「次はあっち……! 嫌な臭いが、どんどん近づいてきてるよ!」
ルフィアが鼻をひくつかせ、表情を険しくして指差す。その先では、巨大な牙を持つ剛毛の猪や、木々の間を這い回る毒蛇の魔物が、俺たちの侵入を拒むように待ち構えていた。
「よし、みんな。この勢いで村の周りの魔物も一気に片付けてしまおう。村の人たちが安心して森に入れるようにね!」
「「「はいっ!」」」
俺の号令に、三人が力強く応える。リリスが槍の穂先を研ぎ澄ませて先陣を切り、ロディーが風のように草原を駆け、セラフィーナの聖なる魔導が森の淀みを浄化していく。
ルフィアの導きのもと、俺たちは魔物を見つけるたびに、迷うことなくその討伐へと向かった。一歩踏み込むごとに、森が本来の静謐を取り戻していくのが肌で感じられた。
「また魔物が現れたわね。気をつけて討伐しに行きましょうか」
セラフィーナが、茂みの奥から漂う腐敗したような魔気を察知し、冷静に告げた。その手にはすでに、清らかな魔力を宿した杖が握られている。
「はぁい! みんな、準備はいいかなぁ?」
俺の声に、仲間たちは一斉に力強く頷いた。
現れたのは、硬質の鱗に覆われた巨大なトカゲの群れだった。ロディーが低く構えて前線へ躍り出ると、鋭い剣筋で魔物の突進を受け流し、一歩も引かずに敵の群れを分断する。負傷を厭わぬその献身を、セラフィーナの放つ暖かな光の雫——回復魔法が瞬時に癒やしていく。
「そこだ、焼き尽くせ!」
リリスが槍を振るうたび、激しい炎の渦が巻き起こり、魔物たちの退路を断つ。さらに今回は、ルフィアも戦場を縦横無尽に駆け回った。その小さな体躯と獣人特有の瞬発力を活かし、「こっちだよー!」と声を上げながら魔物たちの視線を釘付けにする。
魔物が翻弄され、決定的な隙を晒したその瞬間。
「これで、おーわ
「やったぁ! お兄ちゃん、大好き!」 ルフィアは弾かれたように満面の笑みを咲かせると、大きなリュックを揺らしながら俺の胸に飛び込んできた。柔らかな毛並みの感触と、心からの喜びが全身に伝わってくる。 こうして、銀色の尻尾を持つ新しい仲間が加わり、俺たちの旅はさらに賑やかで充実したものになった。次なる目的地への期待に胸を躍らせながら、俺たちは村の境界線を越えて歩き出す。 ……だが、歩を進めるうちに、俺の脳裏にある重大な事実が浮上してきた。「あ……そういえば俺たち、無断外泊なんだよね。あはは……」 城に帰った後、待ち受けているであろう説教の嵐を想像し、俺の顔から急速に血の気が引いていく。ルフィアの無邪気な笑い声が響く中、俺は一人、深い溜息を吐きながら城の尖塔が見える方向へと足を向けた。♢帰還、そして母の愛の鉄拳 王城へと続く馴染み深い石畳を踏みしめながら、俺の足取りは自然と軽くなっていた。今回の遠征では魔物を蹴散らし、卑劣な盗賊どもを根こそぎ討伐した。王国の平穏と国民の笑顔を守るため、俺なりに粉骨砕身の努力をしてきたつもりだ。「最近は城の外で冒険をして、王国のために少しは貢献してるよね?」 心の中で自問自答し、俺は満足げに鼻歌を漏らした。俺、頑張ってるよね~♪きっと皆、驚きながらも称賛の声を掛けてくれるに違いない。母上だって、少しは俺の成長を認めて、優しく褒めてくれるはずだ。そんな淡い期待を胸に、俺は意気揚々とリビングの扉を開いた。 だが、そこで待ち構えていたのは、冷ややかな沈黙と、椅子に深く腰掛けた母上の姿だった。その端麗な顔立ちは、見たこともないほどムスッとした表情で固定されている。周囲の空気が凍りつくような怒気が漂っているが、その瞳の奥には、今にも零れ落ちそうなほどの色濃い「心配」が浮かんでいた。「え? あれ? 俺、頑張って魔物や盗賊を討伐したんだけどぉ……えぇ?」 思い描いていた大歓迎ムードとは正反対の光景に、俺は内心で激しく動揺した。冷や汗が背中
けれど、俺たちの仕事はこれだけでは終わらなかった。森の深淵からは、依然として飢えた獣のような咆哮が響いている。放置され、増えすぎてしまった魔物たちが、今もなお村の安寧を虎視眈々と狙っているのだ。「次はあっち……! 嫌な臭いが、どんどん近づいてきてるよ!」 ルフィアが鼻をひくつかせ、表情を険しくして指差す。その先では、巨大な牙を持つ剛毛の猪や、木々の間を這い回る毒蛇の魔物が、俺たちの侵入を拒むように待ち構えていた。「よし、みんな。この勢いで村の周りの魔物も一気に片付けてしまおう。村の人たちが安心して森に入れるようにね!」「「「はいっ!」」」 俺の号令に、三人が力強く応える。リリスが槍の穂先を研ぎ澄ませて先陣を切り、ロディーが風のように草原を駆け、セラフィーナの聖なる魔導が森の淀みを浄化していく。 ルフィアの導きのもと、俺たちは魔物を見つけるたびに、迷うことなくその討伐へと向かった。一歩踏み込むごとに、森が本来の静謐を取り戻していくのが肌で感じられた。「また魔物が現れたわね。気をつけて討伐しに行きましょうか」 セラフィーナが、茂みの奥から漂う腐敗したような魔気を察知し、冷静に告げた。その手にはすでに、清らかな魔力を宿した杖が握られている。「はぁい! みんな、準備はいいかなぁ?」 俺の声に、仲間たちは一斉に力強く頷いた。 現れたのは、硬質の鱗に覆われた巨大なトカゲの群れだった。ロディーが低く構えて前線へ躍り出ると、鋭い剣筋で魔物の突進を受け流し、一歩も引かずに敵の群れを分断する。負傷を厭わぬその献身を、セラフィーナの放つ暖かな光の雫——回復魔法が瞬時に癒やしていく。「そこだ、焼き尽くせ!」 リリスが槍を振るうたび、激しい炎の渦が巻き起こり、魔物たちの退路を断つ。さらに今回は、ルフィアも戦場を縦横無尽に駆け回った。その小さな体躯と獣人特有の瞬発力を活かし、「こっちだよー!」と声を上げながら魔物たちの視線を釘付けにする。 魔物が翻弄され、決定的な隙を晒したその瞬間。「これで、おーわ
俺の胸の温もりに触れた瞬間、彼女の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。背後では、リリスが最後の一人を槍の柄で叩き伏せ、静寂が戻りつつある。 朝の光が木漏れ日となって、泣きじゃくるルフィアの銀色の髪を優しく照らしていた。 打ち倒された賊たちが地面に転がり、呻き声を上げる中、森に静寂が戻った。恐怖に震えていた他の獣人たちも、ロディーやセラフィーナの手によって次々と解放され、信じられないものを見るような眼差しで俺たちを見つめていた。 一行が村へと帰還すると、そこには昨日までの冷たい拒絶の空気は微塵も残っていなかった。広場には多くの村人が集まり、戻ってきた同胞の姿を見つけると、歓喜の声を上げて駆け寄ってくる。俺たちを取り囲む視線は、もはや鋭い棘ではなく、深い感謝と敬意の色に染まっていた。 村の奥からゆっくりと歩み寄ってきた老齢の獣人が、俺たちの前で深く頭を下げた。「本当にありがとう。君たちのような慈悲深い人間に出会えたことを、山の神に感謝したい。君たちのおかげで、この村はまた平和を取り戻すことができたよ」 村長が震える声で感謝を述べると、周囲の村人たちからも「ありがとう」「助かったよ」という声が次々と重なり、温かな波となって俺たちを包み込んだ。「うん。俺たちはただ、自分たちにできる力を尽くしただけだし……それに、可愛い妹を助けただけだしねぇ〜」 俺は照れくささを隠すように微笑みながら答え、隣で俺の服の裾をぎゅっと掴んでいたルフィアの頭を優しく撫でた。ルフィアは誇らしげに、そして最高に幸せそうな笑顔を浮かべて、何度も何度も小さく頷いている。 昨日までは「隠れ住む場所」だったこの村が、今、俺たちにとって「歓迎される場所」へと変わった。リリスは腕を組みながらも満足げに口角を上げ、セラフィーナは優雅に会釈し、ロディーは村の子供たちに囲まれて少し照れたように笑っている。 夕闇が迫る村には、これから始まる祝宴の準備の匂いが漂い始めていた。人間と獣人。かつて文献に記されていた「共に暮らした時代」の続きが、今ここから、また新しく始まろうとしているのかもしれない。 数日
……見つけた。だが、その気配は一つではなかった。ルフィアの周囲には、複数の獣人たちの怯えたような気配が密集している。そしてそれを取り囲むように、幾つものどす黒い悪意が渦巻いていた。「……これって、昨日の話にあった拐われるってやつじゃないのか?」 嫌な予感が背筋を駆け抜ける。俺はすぐさま仲間の部屋へと駆け上がり、扉を激しく叩いた。「皆、起きてくれ! ルフィアが危ない!」 飛び出してきた三人に、俺は焦燥を隠しきれない声で事情を説明した。「ルフィアが森で捕まったみたいなんだ。他にも何人か獣人が一緒に集められている。間違いなく、昨日話していた拐い屋の仕業だよ。すぐに救出に向かわないと……せっかく、あんなに綺麗な笑顔を見せてくれるようになったのに!」 俺の言葉に、リリスの瞳に怒りの炎が宿った。「……あいつら、よりによってあの娘に手を出しやがったのか。レイニー様、案内を! 完膚なきまでに叩き潰してやる!」 セラフィーナは静かに、けれど鋭い殺気を孕んだ魔力を指先に集め始めた。「わたくしたちの大切な家族に指一本触れさせたこと、後悔させてあげましょう」 ロディーもまた、言葉少なに剣の柄を固く握りしめた。俺たちは宿を飛び出し、森の奥へと続く気配を追って駆け出した。朝露に濡れた草木をなぎ倒し、立ち塞がる枝を払い除ける。 待っててくれ、ルフィア。君の笑顔を、あんな汚い連中に奪わせたりはしない。 朝の爽やかな空気はどこへやら、森の深淵に漂うのは、鼻を突くような血の匂いと、卑俗な男たちの笑い声だった。 俺たちは木々の陰に身を潜め、音もなく獲物を狙う獣のように接近した。ロディーが低姿勢で茂みを抜け、鋭い観察眼で敵の数と配置を確認して戻ってくる。「……男たちが八人。全員武装しています。それと、奥の馬車に……ルフィアたちが」 ロディーの声は怒りで微かに震えていた。セラフィーナが指
膝の上にいたルフィアがくるりとこちらを向き、溢れんばかりの親愛を込めてぎゅっと抱きしめてきた。あはは、随分と懐かれちゃったなぁ……。もちろん、見ず知らずの土地で無警戒に人を信じるほど俺も甘くはない。セラフィーナのスキル『真実の眼』があれば、彼女の言葉が嘘か真実かは一目瞭然だ。もしルフィアが何らかの罠を仕掛けていたとしても、セラフィーナがそっと耳打ちして教えてくれるはず。だが、彼女が向けてくれる視線には、曇り一つない純粋な輝きしかなかった。 夕食の時間になり、俺たちは階下の食堂へと向かった。ルフィアも誘って席に着くと、彼女は当然のように俺の隣の席を陣取った。運ばれてきた湯気の立つシチューや香ばしく焼かれたパンを前に、ルフィアは尻尾をこれでもかと揺らしている。「お兄ちゃん、おいしいねー!」 ルフィアは木のスプーンでシチューを口に運ぶたび、幸せそうに目を細めて叫んだ。もぐもぐと口を動かしながらも、時折、隣に座る俺の顔をチラチラと盗み見ては、熟した木の実のように頬を赤く染めている。その視線は、憧れのお兄ちゃんを見つめる妹のようでもあり、もっと別の熱を帯びているようにも見えた。 温かなオレンジ色のランプに照らされた食堂は、昼間の刺々しい空気とは打って変わって、穏やかな時間が流れている。ルフィアの隣で食事を進める俺を、向かい側の席からリリスがじとーっとした目で見つめ、セラフィーナは優雅にワインを傾けながら、微笑ましくもどこか油断のない視線を送っていた。「レイニー様、お口にソースがついていますよ?」 セラフィーナがそっと身を乗り出し、ハンカチで俺の口元を拭ってくれる。それに対抗するように、ルフィアが「あ、わたしも拭いてあげる!」と俺の袖を引っ張った。賑やかで、少しだけ騒がしい夕食。孤独だったルフィアにとって、この賑わいが何よりの御馳走なのかもしれない。俺は楽しそうに笑う彼女の頭を優しく撫でながら、この穏やかな夜が続くことを願っていた。 賑やかな夕食を終え、それぞれが部屋へと戻っていった。夜の静寂が宿を包み込み、俺とルフィアの二人だけになった部屋で灯りを消すと、窓から差し込む淡い月光が彼女の銀色の毛並みをほのかに浮かび上がらせた。
セラフィーナは、祈るように胸元で手を組み、悲しげに目を伏せていた。「……守られるべき命が、そのような理不尽にさらされているのですね」 ロディーも、自分と同じように小さく弱い立場にあるルフィアの言葉に、拳をぎゅっと握りしめていた。「ルフィア、分かったよ。俺たちが来たからには、もう大丈夫だよ」 俺は彼女の目を見て、力強く微笑んだ。この村を脅かす魔物や盗賊。それらを片付けることこそが、俺たち冒険者の、そしてこの村と仲良くなるための第一歩になるはずだ。 木の爆ぜる音が静かに響く室内で、ルフィアはすっかり俺に心を許したようだった。彼女はふわふわの尻尾を揺らしながら、ごく自然な動作で俺の膝の上によじ登り、小さな背中を俺の胸に預けてきた。 その光景に、すぐ隣で見ていた三人の表情が瞬時に凍りつく。特にリリスは、眉間に深い皺を刻み、今にも火を噴きそうなほど機嫌を損ねていた。「レイニー様……距離が近いぞ……もお! そんなに甘えさせては……今後、収拾がつかなくなって困るぞー! ひと目もあるしぃ……ううぅ……」 リリスの鋭い指摘に、ルフィアの肩がびくりと跳ねた。彼女は垂れ下がった耳を隠すように首を竦め、申し訳なさそうに俺を見上げてきた。「あぁ……そっかぁ。ごめんなさい。あのね、わたし……両親がいなくて、本当は孤児なんだぁ。それでね、久しぶりに温かく甘えさせてくれる人に会って……つい、嬉しくなっちゃったの」 消え入りそうな声で語られた告白に、部屋の空気が一変した。先ほどまで憤っていたリリスが、弾かれたように言葉を失う。同じように身寄りのない孤独を知るリリスにとって、その言葉はあまりに重く響いたようだった。彼女は気まずそうに視線を彷徨わせた後、決まり悪げにルフィアへと向き直った。「……っ、ごめんなさい。そうだったのか…&he